「革製品は、傷がつくのが心配で…」
革財布や革小物を使い始めるお客様から、こんな心配の声をよく聞きます。確かに、新しい革製品に傷がついてしまった瞬間は、落ち込んでしまいますよね。
ですが、実は革のエイジング(経年変化)は革につく傷やシミによって起こるものなんです。

ムネカワは、日々の暮らしの中で革製品につく傷やシワは、革がお客様に馴染んでいく過程で生まれる「味わい」の一つだと考えています。
この記事では、革製品につく傷との付き合い方についてお話しします。
最後までお読みいただければ、傷に対する見方が少し変わり、より安心して、そして愛着をもって革製品をお使いいただけると思います。
傷やシワが「味わい」に変わる、エイジングの仕組み
革製品の魅力として語られるエイジング。
これは単に製品が古くなることではなく、使うことで革の表情がより豊かに変化していく、いわば「革を育てる」プロセスです。
革には、目に見えない無数の毛穴があります。
製品についた小さな傷から、手の脂や革用のクリームといった油分がゆっくりと染み込んでいきます。すると、その部分の色が少し濃くなったり、周りの革との境界線がぼやけて馴染んだりします。

また、毎日使うことで革の表面が摩擦され、自然な艶が生まれます。この艶が、浅い傷を覆い隠すように包み込み、光の当たり具合によっては、かえって革の立体感や深みを引き立ててくれるのです。
こうした艶や色の深みと、日々の生活の中で付く爪傷や擦れが一体となり、新品にはない豊かな表情を作り出していくのです。
まずは知ることから。日常でつきやすい革の傷の種類
革製品は、私たちが思うよりもずっと丈夫です。ここでは、お客様が日常で経験しやすい代表的な傷をいくつかご紹介します。
押し跡

ポケットの中で鍵と当たってしまったり、鞄の中で硬い角に押し付けられたりしてできる凹みです。革には弾力があるため、多くの場合、使い続けるうちに、革全体が少しずつ柔らかくなることで、目立たなくなっていきます。
擦り傷

鞄の中で他の持ち物と擦れたり、机の上で引きずってしまったりした際にできる、表面のわずかなざらつきです。特に革の使い始めは表面がデリケートなため、擦り傷がつきやすいかもしれません。しかし、これも日々の使用による摩擦で自然と馴染み、艶が出てくると気にならなくなります。
爪傷

会計の時などに、うっかり爪で「ピッ」と引っ掻いてしまう線状の傷。おそらく、最も多くの方が経験する傷ではないでしょうか。最初は線がくっきりと見えるため気になるかもしれませんが、これもまた、使い込むうちに革の油分と艶で馴染んでいく代表的な傷の一つです。
「味わい」になる傷と、注意すべき「ダメージ」の違い
長く製品をお使いいただくために、いくつか注意してほしいダメージもあります。
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水濡れによるシミや水ぶくれ
雨などで濡れたまま放置すると、革の油分が抜け、シミや変形の原因になります。濡れたらすぐに乾いた布で優しく拭き取ってください。
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深い切り傷や裂け
革の繊維が完全に断裂してしまった傷は、残念ながら自然には元に戻りません。
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油性インクなどの落ちにくい汚れ
油性マジックなどのインクは革の内部に浸透しやすく、落とすのが困難です。
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湿気によるカビ
長期間使わずに湿度の高い場所で保管すると、カビが発生することがあります。
もし、このようなダメージを受けてしまった場合は時間が経っても目立たなくなることは難しいので、注意するようにしましょう。
参考記事
▶︎「梅雨前に必ずやるべき!革製品のカビを防ぐ3ステップメンテナンス」
傷を「活かす」か「ケアする」か
では、実際に傷がついてしまった時、どうするのが良いのでしょうか。これには決まった正解はなく、お客様の考え方次第で、付き合い方は自由に選んでいただけます。
「活かす」という考え方

あえて特別なケアはせず、日々の使用の中で傷がどう変化していくかを観察する楽しみ方です。手の脂が自然のクリーム代わりとなり、時間をかけてゆっくりと傷が馴染んでいく様子は、まさに革を「育てている」実感を与えてくれます。
「ケアする」という考え方

少し気になる傷ができた時に、基本的なメンテナンスで馴染ませる方法です。乾いた柔らかい布で優しく乾拭きするだけでも、革の油分が移動して傷が目立ちにくくなることがあります。また、少量の保湿クリームを布に取り、薄く塗り込むことで、油分が補給されて傷がより早く周囲と馴染みます。

左:お手入れ前の傷が目立つ状態
右:お手入れをして傷が目立たなくなった状態
大切なのは、傷を「消す」のではなく「馴染ませる」という感覚です。少し小傷などが気になる方は、ぜひお手入れにも挑戦してみてください。
傷も個性として、あなただけの革製品を育てましょう
革製品の本当の面白さは、新品の状態が完成形ではないという点にあります。
日々使う中でついていく傷やシワは、決して欠点ではありません。
完璧な状態を保つことだけを考えるのではなく、そうした小さな変化の一つひとつを「自分だけの個性」として楽しんでいただけたなら、作り手としてもとても嬉しく思います。
傷がつくことを気にしすぎず、自分だけの革製品を楽しみながらじっくりと育てていってくださいね。